Death & Honey

死と蜜、儚く甘く気だるい魔法

”金魚鉢の中の二人”

「それ以上は聞かないで」

込められた断絶の意

言えない金魚鉢の秘密

抱えたままのあなた

今にも向こうの出窓くぐって

飛び降りそう

 

これ以上踏み込めない

もっと知りたいのに

もっと聞きたいのに

その紅い唇からささやき漏れた言葉

 

「それ以上は聞かないで」

 

優しさ?

でも硬い硬い優しさ⋯

 

一瞬

喉の奥が強く揺さぶられ、脳が鈍く殴られて

苦しさが手足を伝っていく

息ができない

呼吸を取り戻さなきゃ

 

ああ

息の仕方を忘れてしまった

愛の仕方を忘れてしまった

 

水は冷たく厳しい 金魚鉢の中

 

 

 

 

”極北のトルソー”

時間の隙間

呼吸の間隔

喪失を告げる極北のトルソー

空回ったっていいよ

見届けてあげるから

 

氷づけの人生

 

かすかな摩擦

予感

未完成な生

暗闇の中

必死に掴もうとしている

 

空回ったっていいよ

見届けてあげるから

 

キスは罠

甘美な毒

 

 

 

”脱皮”

朝焼けが海沿いの道のアスファルトに作ったこのやせ細った影

頼りなく、危うく

 

冴えない色をした車たちが長い間隔をあけて車道を西へ東へ

どこまでも続いているように見え

 

いつだって引きずってるよ

昨日の続きを

去年の続きを

あの日の続きを

あの瞬間の続きを

いつだって心残りで

 

暑くって、うるさくって、耐えられなかったあの夏の通底音

日陰の野良猫よ

君もそうなの?

何を待っているの?

隠れているだけじゃあないんでしょう?

 

そして夜が来て朝が来て

 

病んでやせ細ってしまった己に問いかけてみる

君もそうなの?

何を待っているの?

隠れているだけじゃあないんでしょう?

 

朝焼けが海沿いの道のアスファルトに作ったこのやせ細った影

誰も何も答えてくれない

 

冴えない色をした車たちが長い間隔をあけて車道を西へ東へ

どこまでも続いているように見え

 

思考を止め

感情の茫洋さから離脱

優しく足を止め

静かに深呼吸をした

 

そうだ

隠れているだけじゃあない

と、一歩足を前へ

私の体重を受け止めた砂浜がゆっくりと沈み込んだ

 

 

 

 

 

 

”ねむけ”

眠気は理路整然

目を閉じながら

陽炎

都合の良い昨日の言葉は

明日には通用しない

真夜中の境界線上

 

木造の船が静脈を突き進む

 

 

 

”ある画家の証”

記録されていた

生きた証は

白いスケッチブックに鉛筆で

定着された黒鉛の線

その線の佇まいが放つ生命力の

ああ、なんともか細くも力強い放出

 

眩しいほどでもなく

暗くて見えないほどでもなく

しかし確実に「俺はここに居たんだぞ」と

何冊にも及ぶスケッチブックの1ページ1ページがそう言っている

 

主張と言えるほど傲慢でもなく

沈黙というほどかしこまったものでもなく

これが画家の存在そのもの、証

 

ページをめくるたびに息はつまり

呼吸するのを忘れ

瞬間瞬間、自分の定義を忘れ

生きていることを忘れ

 

もうこれ以上ページが更新されることはない

新しい絵が描かれることはない

そんな悲しみがそっと

寂しさがじわっと

一番最後の絵の次の、何も描かれていない白いページに現れて

やがて定着した

 

 

 

 

”影と陰を”

全てを満遍なく照らす必要はない

程よく影と陰を

 

 

 

"生まれて一番の夏"

水を蹴って

寝袋

ジャズドラム

17の

生まれて一番の夏は

天の河を見つめながら

安いビールに手を出したりして

その苦さが喉に焼きつく

 

ねえ、「おいで」って言ってよ

すぐに飛んでくから

僕は君のお誘い待ちさ

 

白いウミネコの群れ

夏期講習の帰りのけだるい足取り

お話を終わらせたくなくて

ずっと

この夏中

 

「じゃあね」

「また明日」

 

ねえ、「行こう」って言ってよ

すぐに駆けつけるから

僕は君のお誘い待ちさ

 

17の

生まれて一番の夏は

改札出たところでずっとこのまま

お話を終わらせたくなくて

お話を終わらせたくなくて

 

ずっと

この夏中