Death & Honey

死と蜜、儚く甘く気だるい魔法

”白い馬と走る”

白い馬の胴を撫でた

かたくも滑らかな毛

奥で筋肉や血管や心臓がうごめいている

そんな気配を感じる

生きているということはこんなにも不気味で、不思議なのか

 

私は鞍にまたがり

小一時間、コースを走った

(これはわたしがはしっているのとおなじ⋯)

そう、おなじことだ

 

頬で春の前触れの風を感じ

遠くの牧場にいる茶褐色の牛たちに目をやった

 

その先にはさらに段差がいくつもあって、どこまでもどこまでも濃淡さまざまな緑色した丘が続いている

はるか向こうには白んだ青い山々

馬が土や草を踏む振動を身体で感じながら

段々と、凛々しい気持ちになっていく

 

ここでは私は一人だ

この白い馬も含めて、一人なのだ

 

心の奥の蒼い、夕暮れ前の蒼い部分が

静かに静かに

満ちてゆき

深呼吸とともに

やがて解放される

 

「ありがとね、またね」

 

鞍から降りるとき、馬にそう話しかけて、その首元をゆっくり撫でた

私の中の空はもう日が暮れてしまったので、服を着替えて街へと下った

すっかり夜に染まった街の中でさえ、私はあの白い馬に乗っているのと

一緒に走っているのと同じなのだ

 

(部屋に連れて帰れたらいいのになあ⋯)

自分の狭い部屋を半分占領した白い馬の光景を想像して

少し愉快になって頬が緩んだ