Death & Honey

死と蜜、儚く甘く気だるい魔法

"生まれて一番の夏"

水を蹴って

寝袋

ジャズドラム

17の

生まれて一番の夏は

天の河を見つめながら

安いビールに手を出したりして

その苦さが喉に焼きつく

 

ねえ、「おいで」って言ってよ

すぐに飛んでくから

僕は君のお誘い待ちさ

 

白いウミネコの群れ

夏期講習の帰りのけだるい足取り

お話を終わらせたくなくて

ずっと

この夏中

 

「じゃあね」

「また明日」

 

ねえ、「行こう」って言ってよ

すぐに駆けつけるから

僕は君のお誘い待ちさ

 

17の

生まれて一番の夏は

改札出たところでずっとこのまま

お話を終わらせたくなくて

お話を終わらせたくなくて

 

ずっと

この夏中

 

 

 

 

”白い馬と走る”

白い馬の胴を撫でた

かたくも滑らかな毛

奥で筋肉や血管や心臓がうごめいている

そんな気配を感じる

生きているということはこんなにも不気味で、不思議なのか

 

私は鞍にまたがり

小一時間、コースを走った

(これはわたしがはしっているのとおなじ⋯)

そう、おなじことだ

 

頬で春の前触れの風を感じ

遠くの牧場にいる茶褐色の牛たちに目をやった

 

その先にはさらに段差がいくつもあって、どこまでもどこまでも濃淡さまざまな緑色した丘が続いている

はるか向こうには白んだ青い山々

馬が土や草を踏む振動を身体で感じながら

段々と、凛々しい気持ちになっていく

 

ここでは私は一人だ

この白い馬も含めて、一人なのだ

 

心の奥の蒼い、夕暮れ前の蒼い部分が

静かに静かに

満ちてゆき

深呼吸とともに

やがて解放される

 

「ありがとね、またね」

 

鞍から降りるとき、馬にそう話しかけて、その首元をゆっくり撫でた

私の中の空はもう日が暮れてしまったので、服を着替えて街へと下った

すっかり夜に染まった街の中でさえ、私はあの白い馬に乗っているのと

一緒に走っているのと同じなのだ

 

(部屋に連れて帰れたらいいのになあ⋯)

自分の狭い部屋を半分占領した白い馬の光景を想像して

少し愉快になって頬が緩んだ

 

 

 

 

 

”銀河中が”

温もりを

そっと

ゆっくりと

熱交換でしかないのに

不思議だな

 

錯覚して

眠りへ落ちてく

夜がキラキラと泣いているよ

相手をしてあげて

 

星たちがたくさん

列を作ってあなたの話を待っている

銀河中があなたの話を待っている

銀河中が期待してる

 

 

 

 

 

”今夜は構わない”

傷つきやすいので

守ってください

言えたらなあ

 

ときどき、一番奥の自分が顔を出すよ

一番奥の一番傷つきやすい自分

ときどき、ピキピキ、冬の夜風にさらされたりして

 

そんな時は踊ることにしている

一緒に踊りましょう

コンビニで素敵っぽいお酒を買ったりして

 

今夜は汚れても構わないよ

 

 

 

“交差点”

白と黒のストライプが

交わって

それぞれの方向へ

 

何かを指し示しているようで

実はとてもおおまかでしかない信号たち

 

ぬめぬめと

ひとひとと

まとわりついて

離れない

淡い陰謀のような

この世界で生きていくためのルール

 

気持ちいいのか

気持ち悪いのか

その両方かもしれない

 

摂理と法則を受け入れて

すいすいと歩いていく

交差点の人混みの中で君を見つけたけれど

なんだか声をかけられなかった

 

お互い大変だね

そう思っただけ

どっちが優れているとか劣っているとか

勝っているとか負けているとか

決めたくなかった

決められたくなかった

 

交差点の中で

そんな私は異物だった

やはり接触して

欠けて

摩耗して

丸くなる

 

ちかちかと光って

消えていく

 

 

 

 

”おやすみの断片”

威張り散らした天上のパイプオルガン

気まぐれなシャボン玉の生命

どうやったって返ってこない手紙の返事

誰も乗せていないのに回り続けるメリーゴーランド

 

そんな景色

もう忘れてしまったよ

こうやって思い出のように話しかけているけれど

戻らないものがあまりにも多すぎる

この心の中にだけはとどめておけないかしら

 

とスケッチブックに殴り描きをした

静かな断片

静寂を一つ、そっと布団の中に忍び込ませよう