Death & Honey

死と蜜、儚く甘く気だるい魔法

”光速”

閃死のフラッシュ

ドットの青春が分解

悶喜のクラッシュ

急カーブで冷や汗

選択の余地

光速

同時に拘束

気づかないまま

ハンドルを握る

潤滑油を刺されていたのはマシンじゃなく僕

選択の予知

しがみつくのは

親と先祖と神様と宿題

愛想笑い

致命的な癒し

有史以降のプロジェクト

 

ハンドルを握って

遺伝子

複製

廻ってるだけなのか

廻ってただけなのか

しがみつくのは

子供と子供と子供と遺伝子

 

儀式(セレモニー)を破棄

耐望のクラッシュ

原惑のフラッシュ

突然の中断

つまり僕の死

 

 

 

 

”Y字路に立って”

右手には煙草のにおいが染みついて

脳にはさっき吸った煙が充満している

男は立ち止まる

ぼんやり考える

蒙昧とした視界

Y字路の向こう

駱駝色のコートに包まれた躰にゆっくり静電気が溜まる

 

遠く

山の向こうに毛むくじゃらの巨人を見た

悲しい歌を歌っていたそれはこのY字路の先

 

彼は随分長い間ぼんやり考えている

また新しい煙草

一つの火

二つの道

煙に目を細め

新しい考え

古い価値観

今まで撃った銃弾の数 傷つけた人達

振り返ると

煙と共に消えた

彼はゼロ

ナッシング

 

どちらの道を選んでも誰も彼を責めはしない

どちらの道を選んでも巨人の悲しい歌声は聞こえる

 

 

 

 

”金魚鉢の中の二人”

「それ以上は聞かないで」

込められた断絶の意

言えない金魚鉢の秘密

抱えたままのあなた

今にも向こうの出窓くぐって

飛び降りそう

 

これ以上踏み込めない

もっと知りたいのに

もっと聞きたいのに

その紅い唇からささやき漏れた言葉

 

「それ以上は聞かないで」

 

優しさ?

でも硬い硬い優しさ⋯

 

一瞬

喉の奥が強く揺さぶられ、脳が鈍く殴られて

苦しさが手足を伝っていく

息ができない

呼吸を取り戻さなきゃ

 

ああ

息の仕方を忘れてしまった

愛の仕方を忘れてしまった

 

水は冷たく厳しい 金魚鉢の中

 

 

 

 

”極北のトルソー”

時間の隙間

呼吸の間隔

喪失を告げる極北のトルソー

空回ったっていいよ

見届けてあげるから

 

氷づけの人生

 

かすかな摩擦

予感

未完成な生

暗闇の中

必死に掴もうとしている

 

空回ったっていいよ

見届けてあげるから

 

キスは罠

甘美な毒

 

 

 

”脱皮”

朝焼けが海沿いの道のアスファルトに作ったこのやせ細った影

頼りなく、危うく

 

冴えない色をした車たちが長い間隔をあけて車道を西へ東へ

どこまでも続いているように見え

 

いつだって引きずってるよ

昨日の続きを

去年の続きを

あの日の続きを

あの瞬間の続きを

いつだって心残りで

 

暑くって、うるさくって、耐えられなかったあの夏の通底音

日陰の野良猫よ

君もそうなの?

何を待っているの?

隠れているだけじゃあないんでしょう?

 

そして夜が来て朝が来て

 

病んでやせ細ってしまった己に問いかけてみる

君もそうなの?

何を待っているの?

隠れているだけじゃあないんでしょう?

 

朝焼けが海沿いの道のアスファルトに作ったこのやせ細った影

誰も何も答えてくれない

 

冴えない色をした車たちが長い間隔をあけて車道を西へ東へ

どこまでも続いているように見え

 

思考を止め

感情の茫洋さから離脱

優しく足を止め

静かに深呼吸をした

 

そうだ

隠れているだけじゃあない

と、一歩足を前へ

私の体重を受け止めた砂浜がゆっくりと沈み込んだ

 

 

 

 

 

 

”ある画家の証”

記録されていた

生きた証は

白いスケッチブックに鉛筆で

定着された黒鉛の線

その線の佇まいが放つ生命力の

ああ、なんともか細くも力強い放出

 

眩しいほどでもなく

暗くて見えないほどでもなく

しかし確実に「俺はここに居たんだぞ」と

何冊にも及ぶスケッチブックの1ページ1ページがそう言っている

 

主張と言えるほど傲慢でもなく

沈黙というほどかしこまったものでもなく

これが画家の存在そのもの、証

 

ページをめくるたびに息はつまり

呼吸するのを忘れ

瞬間瞬間、自分の定義を忘れ

生きていることを忘れ

 

もうこれ以上ページが更新されることはない

新しい絵が描かれることはない

そんな悲しみがそっと

寂しさがじわっと

一番最後の絵の次の、何も描かれていない白いページに現れて

やがて定着した